コミック

ニコラ・ド・クレシー『天空のビバンドム』

フランスのBD作家によるコミック。作者ニコラ・ド・クレシーはここで物語を語るにあたって、員数過多の相互に対立する語りの立場を導入することにより、物語の内容をこの形式の不備に照応させるべく諸勢力からなる広汎な闘争劇へと仕立て上げる。ざっと数え…

マルク=アントワーヌ・マチュー『3秒』

マルク=アントワーヌ・マチューというBD作家の『3秒』という作品を読んだ。それぞれが正方形をした3×3の9コマがページ単位でさらに大きな一個の正方形を形づくって1頁を構成している。確かとり・みきがこんなコマ構成の1頁マンガをむかし描いていたっ…

三好銀『三好さんとこの日曜日』

三好銀が作品の中で繰り返し作り出す「隔たり」といったものがあるように思う。『三好さんとこの日曜日』は作家のデビュー単行本であるけれど、収録されている各回のエピソードは連載当時のエピソードの中から数を限ったうえでより抜きした体裁になっていて…

本秀康『たのしい人生 完全版』

本秀康が短篇作品で切り取る時間は、現在の情況だとかそこでの登場人物の行動を決定的に規定するようなある刻印的な過去の出来事の時間にすでに早くも押し出されており、しかしまた、その情況に対する自分の無力を何ひとつ自覚できないまま物語の語る行動の…

薔薇園の案内人

ドゥルーズ『シネマ1』読書中。ここ最近何ごとにつけどうも集中力が持続せず、5ページ分くらい読んだらすぐに気が散りはじめてしまって、気づいたら音楽聴いたり益体もない考え事に放心したみたいになってしまい、いっこうに本を読み進める呼吸が整わない…

高野文子「マッチ売りの少女」

先週購入したマンガ数冊をひととおり読んで、すが秀実の原発関連の新著を読み、ついでボルヘスの、これはずいぶん以前に買ってあって積んどいたままだった『エル・アレフ』を読み始めてみたり。今週はそんな感じ。目を通したどの作品も満足するものだったけ…

高野文子『火打ち箱』

今週は本とCDを少しずつ購入。前の月までに手に入れた本などまだ消化しきれていないものもあるから、こうして積ん読分がちょっとずつ嵩を増してゆく。やむなし。先週から週刊ジャンプで連載がはじまった古舘春一というひとのマンガがめっぽうおもしろかった…

煮魚をきれいに食べる保安官(お嫁さん候補)

今週はなんだろ、振り返ってみると景色いちめんにもやーっと紗がかぶさってるみたいで、あまりこれといった印象もなく無為のままなんとなく過ぎてった気がするな。毎日家に帰っては夜更けにかけて農耕詩を読みつづけてたってことだけは確かなんだけど、ほか…

三好銀『海辺へ行く道 そしてまた、夏』

帯の紹介文によると「海辺へ行く道」のシリーズも今作でおしまいらしい。おしまいとかいっても連作短篇という体裁の作品集だったので全篇とおしての物語としての主筋があったというわけでもないし、シリーズ3作におさめられてるどの作品で連作が終わっても…

高野文子「黄色い本」

amazonのカートの中には欲しくても買えないままでいる品物がけっこうたまってる。300点くらいあるよ。限られた費用のなかでなんとかやりくりして毎月これはと思う品物を何点かずつ厳選して購入することにしてるけど(このかっつかつの算段の過程がかなり楽し…

高野文子「絶対安全剃刀」/「ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事」

今週は高野文子の作品を二点ほど手に入れた。いっこはおととしの「こどものとも年少版」に掲載された絵本作品で、出た当時手に入れそこなってこれまで現物を見たことがなかった「しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん」を古書で。もういっこは「母の友…

高野文子「ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事」

年が明けたわけだけど身の周りの何かが特にがらっと変化したわけじゃない。外出なんかもほとんどしなかったし、いつもどおりの週日をおおむね休暇として過ごしただけだった。すでにおとといから仕事も始まってるし、なおさら平常どおりの週末という感じだ。…

あっ!やせいのほんだなが とびだしてきた!

せっかく大晦日に更新することだし、今年を振り返って『わたしの読んだ今年の本ベスト10』とか『わたしを喜ばせた今年の音盤トップ10』みたいな記事を書いてみたかったんだけど、そういうのっていうのは一年通してちゃんと本とかマンガ読んでCD聴いてた人じ…

喉をすっきりさせてくれ、あるいは、「俺に叫ばせろ!」

今週は荒木飛呂彦の「ジョジョリオン」の1巻と西尾維新のジョジョ小説を読んだ。来年はジョジョ25周年らしく、いろいろと盛り上がってるみたいだ(小説の方読み終えたらディオ関連のことをちょっと確認したくなって6部をぱらぱらと流し読みしてたら、例のケ…

高野文子「うらがえしの黒い猫」

「スティールボールラン」に登場したヴァレンタイン大統領のスタンドがD4Cって名前で、そういや元ネタになってるAC/DCの楽曲を聴いたことないなって気づいた。そもそもAC/DCってバンドじたいが名前をかろうじて知ってるくらいで演奏を聴いたこともない。むか…

高野文子「春ノ波止場デ生マレタ鳥ハ」

今週はマンガと本を何冊かずつ購入した。『第七女子会彷徨』の3巻と『よつばと!』の新しいやつ、それから、松本大洋の新しい連載が始まってたのぜんぜん知らなかったんだけどその『Sunny』ってやつの1巻、マンガはこの3冊を。松本大洋の作品、これまで読…

高野文子「病気になったトモコさん」

80枚を越えたくらいまで進んだところで文章の方はペースダウンした。途中、ドゥルーズの説くセリー技法のおさらいに「意味の論理学」を少しだけ読み直したり、「カフカ」をもう一度頭から読んでみたり。搭載してる頭の中のメモリの容量が低いからか、ひと…

高野文子「方南町経由新宿駅西口京王百貨店前行」/「奥村さんのお茄子」

マンガの評論を書くのはぼちぼちとつづいている。仕事が終わったあとの日課になってる。先日、治りかけてたかさぶたを剥がしてしまってそこんところがきゅっと痛い。我慢して文章を書く。蜘蛛の巣を作るみたいにして一本ずつひいこら言いながら織りあげてい…

高野文子「ウェイクフィールド」

「モンキービジネス」の最終号に掲載されてる高野文子の「ウェイクフィールド」。原作はナサニエル・ホーソーン。掲載誌が休刊してしまったということは、連載のほうも今回で最後なんだろか。最後なんだろう。毎回毎回とても変わった試みをしていてすごく刺…

「田辺のつる」

マンガ描くのも一段落ついて最近はまた暇になった。暇と言えばいつだって暇な人生なんだけど、ここ数ヶ月のような能動的に行う楽しい務めのようなものがなくなってしまったという意味で、暇オブザ暇みたいになった。今月に入って買ったメビウスの『アンカル…

市川春子『25時のバカンス』

市川春子『25時のバカンス』 市川春子の新しい作品集。ここ1,2年に描かれた中短篇三作が収録されてる。最近自分でもマンガを描いていたからだろうけど、これは読んでいて、明らかに今自分が嫉妬してしまっているってことを感じさせずにはおかないくらいに…

高野文子「鳥取のふとん」

「モンキービジネス」に掲載されてる高野文子の連載三回目。原作はラフカディオ・ハーン。 前回の「マッチ売りの少女」では額縁状の六角形の形態が作品全体で描かれる図の基礎的な決まりごとみたいに機能していたけれど、この「鳥取のふとん」では、作文用の…

三好銀と「絵葉書」に開いた穴/三好銀『海辺へ行く道 冬』

去年読んだ三好銀の連作短篇集の続篇。相変わらずおもしろすぎて困る。ブログみたいな場所でこうして感想のことばを綴ることには、作品をつうじて思考のこうむった圧力を幾分かでも(日常の生活に差しさわりのない程度にまで)下げてやるという自助的な浄化っ…

クリストフ・シャブテ『ひとりぼっち』

国書刊行会「BDコレクション」の二冊目。先月の『イビクス』が素晴らしかったんで取りあえずこのシリーズの支援ということで購入してみたんだけど、何の心配も必要ないくらいにおもしろい作品だった(付録のリーフレットで予告されてる三回目の配本が気にな…

高野文子「マッチ売りの少女」

『モンキービジネスvol.11』に掲載の高野文子の連載二回目。以下メモ。 ページを開いて画面をパッと見た印象としては、これはもう挿絵ともマンガとも言いがたい、何か幾何学の図形かある種の立体物の展開図のような、とても奇異な眺めとして目に飛びこんでく…

中野シズカと光の反象徴的なものへの疾走/中野シズカ『刺星』

この前読んだ『星匠』が素晴らしかったんで彼女の『オートバイ』という絵本といっしょにこの作品も購入してみた。どっちもおもしろく読んだんだけど、読みごたえとしては分量もあるこっちのマンガのほうがさらに作家の力量の厚みのようなものを感じられた。(…

パスカル・ラバテ『イビクス ネヴゾーロフの数奇な運命』

絵はめちゃくちゃ上手いし話もめっぽうおもしろくて、作者についても作品についてもほぼなんの予備知識もなく読み始めたもんだから、とてもびっくりした(すでに国際的な賞も受賞している作品で、パスカル・ラバテって人もバンドデシネの方面ではとても高い評…

中野シズカ『星匠』

まずカバー絵のデザインに一目で惹かれて、タイトルの星匠ということばの漂わせる不思議なイメージもなんだか魅力的で、アマゾンのオススメページで書影を見かけたときからちょっと気になっていた。本屋で実物を手にとってみたら思っていた以上に良い雰囲気…

三好銀『いるのにいない日曜日』

収録されている「ピンナップ」というエピソードには、ある一枚の写真を巡って人物たちの身辺に起ったできごとが描かれている。ある日ゴミ捨て場の前で、女が一枚の写真を拾う。建物のベランダか縁側みたいに見える場所を間近の距離から切り取ったその写真には…

高野文子「謎」

『モンキービジネスvol.9』に掲載の高野文子の『謎』。(正確には、ウォルター・デ・ラ・メアという作家のショートストーリーを柴田元幸さんが翻訳し、それを高野さんが自身による挿絵をまじえてあらためて「見る小説」のように再構成したもの。三者による合…