2009-02-01から1ヶ月間の記事一覧

多和田葉子『ゴットハルト鉄道』

マユコは先端恐怖症や高所恐怖症というのがどんなものなのか想像ができないほど、自分は神経の太い人間だと信じ込んでいたが、よく考えてみるとふたつだけひどく恐いものがあった。ひとつはハチ、もうひとつはハシだった。蜂が顔のまわりを飛びまわると、重…

バラード『コカイン・ナイト』

かっこよさげなので、雰囲気重視でいきなりニーチェとか引用してみる。 (……)根拠の原理がその具体的な形態のどこかで例外をゆるすように見える場合、人間はとつぜん象徴界の認識形式に迷いをおぼえ、途方もない戦慄的恐怖にとらえられるものだが、ショーペン…

すが秀実『詩的モダニティの舞台』

詩というものを何ひとつまともに読んだことがないし、ましてや詩の歴史や「詩概念」(ポエジー)というものについては今まで考えを巡らせたことすらなかったけれど、この本は刺激的でとてもおもしろかった。すが秀実の著作は『探偵のクリティック』以降のもの…

チェスタトン『木曜日だった男』

「君の変装は良いね」サイムはマコンを一杯飲み干して、言った。「ゴーゴリの変装より、ずっと良い。初端(はな)から、あいつは少し毛むくじゃらすぎると思ってたんだ」 「芸術観の相違さ」教授は物思わしげにこたえた。「ゴーゴリは理想主義者だった。無政府…