2010-01-01から1年間の記事一覧

クリストフ・シャブテ『ひとりぼっち』

国書刊行会「BDコレクション」の二冊目。先月の『イビクス』が素晴らしかったんで取りあえずこのシリーズの支援ということで購入してみたんだけど、何の心配も必要ないくらいにおもしろい作品だった(付録のリーフレットで予告されてる三回目の配本が気にな…

高野文子「マッチ売りの少女」

『モンキービジネスvol.11』に掲載の高野文子の連載二回目。以下メモ。 ページを開いて画面をパッと見た印象としては、これはもう挿絵ともマンガとも言いがたい、何か幾何学の図形かある種の立体物の展開図のような、とても奇異な眺めとして目に飛びこんでく…

中野シズカと光の反象徴的なものへの疾走/中野シズカ『刺星』

この前読んだ『星匠』が素晴らしかったんで彼女の『オートバイ』という絵本といっしょにこの作品も購入してみた。どっちもおもしろく読んだんだけど、読みごたえとしては分量もあるこっちのマンガのほうがさらに作家の力量の厚みのようなものを感じられた。(…

パスカル・ラバテ『イビクス ネヴゾーロフの数奇な運命』

絵はめちゃくちゃ上手いし話もめっぽうおもしろくて、作者についても作品についてもほぼなんの予備知識もなく読み始めたもんだから、とてもびっくりした(すでに国際的な賞も受賞している作品で、パスカル・ラバテって人もバンドデシネの方面ではとても高い評…

中野シズカ『星匠』

まずカバー絵のデザインに一目で惹かれて、タイトルの星匠ということばの漂わせる不思議なイメージもなんだか魅力的で、アマゾンのオススメページで書影を見かけたときからちょっと気になっていた。本屋で実物を手にとってみたら思っていた以上に良い雰囲気…

『ジャン=フランソワ・ラギオニ短篇集』

「アニメーションズ」のレヴューで取り上げられている作品の中から、面白そうで手に入れやすそうなDVDを一本選んで購入してみた。同封されてるライナーノーツの文章によると、このジャン=フランソワ・ラギオニという人は1939年生まれのフランスのアニメーシ…

ミシェル・フーコー『レーモン・ルーセル』

立て続けに二回繰り返して読んでみたんだけど、結局難しすぎて議論に追いついていけなかった。ただ、理解できた範囲にかぎってもこの本はめちゃくちゃ刺激的だし、文学を読むフーコーはやっぱりとんでもなく凄い。原著に当たっているかどうか、原語に通じて…

レーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』

問題の規模がでかすぎるので、気づいた点だけ箇条書きでメモ的に記述していくしかない。おびただしい数の個々のイメージの奇怪さや、襞のように屈曲した細部の複雑さなんかはいっさい無視して、テクストの形式面にかかわる点だけ。 レーモン・ルーセルの手法…

ゾラ『ナナ』

のっけから引用長いよ。 〔…〕強い光が突然死人の顔を照らした。それは見るからに恐ろしかった。みんなは身慄いして逃げだした。 ──ああ、あの人は変わっちまった。と最後までとどまっていたローズ・ミニョンは呟いた。 彼女は部屋から出て、扉を閉めた。ナ…

レーモン・ルーセル『アフリカの印象』

読み方は最後までよくわからなかったんだけど刺激的な作品だった。以下とっちらかったメモ。 訳者の方の解説やフーコーの文章*1なんかを読むと、レーモン・ルーセルは自分の書いた作品の幾つかを、自身「手法(プロセデ)」と呼ぶ、ある特異で秘教的な性格をも…

ゾラ『居酒屋』

小説のドラマの水準には度を越した過大があるように思った。主人公である洗濯女ジェルヴェーズの汚辱にみちたむごたらしい死で終わるこの物語は、彼女の人生からの転落と道徳的な廃頽を克明に追って、その叙述により、際限のない極大化にいたる過大な負荷を…

三好銀『いるのにいない日曜日』

収録されている「ピンナップ」というエピソードには、ある一枚の写真を巡って人物たちの身辺に起ったできごとが描かれている。ある日ゴミ捨て場の前で、女が一枚の写真を拾う。建物のベランダか縁側みたいに見える場所を間近の距離から切り取ったその写真には…

ジャック・ランシエール『イメージの運命』

小説の描写のことを考えるときにきっかけになりそうことをメモ。というか、メモとも言いづらい混乱ぎみの走り書き。 ランシエールは「表象不可能なものがあるのかどうか」という論考のなかで、芸術の表象的体制そのものを基礎づけながらこの体制における諸芸…

高野文子「謎」

『モンキービジネスvol.9』に掲載の高野文子の『謎』。(正確には、ウォルター・デ・ラ・メアという作家のショートストーリーを柴田元幸さんが翻訳し、それを高野さんが自身による挿絵をまじえてあらためて「見る小説」のように再構成したもの。三者による合…

本秀康『ワイルドマウンテン』

このあいだ出たVol.8を最後に、とうとう『ワイルドマウンテン』が完結した。1巻の奥付けを確認すると初版が2004年だということなんで、この作品とも6年近いつきあいだったということになる。もっとも、連載が掲載されてた雑誌のほうにはまったく目を通して…

三好銀『海辺へ行く道 夏』

前からアマゾンのオススメのページを開くたびにやたらとこのマンガの書影が表示されて、絵柄の雰囲気も良さげだし、ちょっと気にはなっていた。ただ作者の名前もまったく見覚えがないし、もともとが見知らぬものにたいして手を出すのを躊躇しがちなたちなも…

フローベール『感情教育』

これはめちゃくちゃおもしろい小説だった。……と、書き始めたのはいいけど、じゃあどこがどうおもしろかったのか?と人に尋ねられたら、さっそくことばに詰まってしまう。ちょっとおもしろさの規模がでかすぎる気がする。(読んでるこっちの身の丈が、そこでフ…

スタンダール『パルムの僧院』

『赤と黒』はちょうど2年前に読んでいる。物語の細かい脈絡はすっかり忘れてしまっていて情けないんだけど、当時控えておいた感想を読み直してみたら、『間男の父親をもつ息子が自分じしんも間男として女の前に現われて、おそらく(事実ではなく権利問題とし…

ウラジーミル・ソローキン「青脂」

クロード・シモンの「農耕詩」といっしょに『早稲田文学3号』に掲載されてた作品で、こちらもテキスト全体の約3分の1ほどの部分的な訳出とのこと。ソローキンってはじめて読んだ作家だったけど(名前を聞いたこともなかった)、これは面食らった。そしてけ…

クロード・シモン「農耕詩 I」

『早稲田文学3号』に掲載のクロード・シモン『農耕詩』の第一章。これは凄い文章だった。圧倒された。エクリチュールのうえで何かたいへんなことが起っていることは感じるんだけど、厳密にはよく分からない。悔しいけど、何が凄いのかもよく分からない。同…

市川春子『虫と歌 市川春子作品集』

まったく知らない作者だったんだけど、最近ちらほらと評判を聞いて気になっていて、ものは試しと単行本を買って読んでみたら、これが抜群におもしろかった。なるほど、これは世間がほっとくわけないな、と納得した。4本の短篇が収録されてる作品集だけど、…

高野文子と余白のポジティビティ

高野文子の新しい連載が予定されているというはなしを聞いてみなぎってきた。ということで、ここ何日かかけて、ゆっくり彼女の今までの作品を読み直している。読むたびにやっぱり凄いという印象なんだけど、今回は白さと黒さ、明るさと暗さ、線によって識別…

大江健三郎のインタビュー記事

今朝の読売新聞の大江健三郎のインタビューから発言を抜粋。 《『水死』の父親は大江氏の父の実像とはすっかり違う。にもかかわらず「真実」の匂いがじつに濃い。 大江氏は「実際の出来事をいくら書いても、もはや本当の僕の歴史ではありません。私はこんな…