読書

ジャン・ジュネ『女中たち バルコン』

ジュネの作品を読むのは初めて。いつか読みたい作家として気にかけつつそのままだったんだけど、先月アマゾンのオススメをチェックしてたら手に取りやすい値段で新しく刊行されてる文庫が見つかったんで、「アラ、いいですね」ってことで即注文。品物が届い…

トーマス・ベルンハルト『消去』

前から気になってた小説。物語の語りかたがちょっとおもしろい。人称代名詞によってタグづけされるようなかたちで自由間接話法による文章が記述されていく。≪アイゼンベルクが彼女に歩み寄った、と私はガンベッティに言った、と私はいま、自分の仕事部屋の窓…

ミシェル・フーコー『レーモン・ルーセル』

立て続けに二回繰り返して読んでみたんだけど、結局難しすぎて議論に追いついていけなかった。ただ、理解できた範囲にかぎってもこの本はめちゃくちゃ刺激的だし、文学を読むフーコーはやっぱりとんでもなく凄い。原著に当たっているかどうか、原語に通じて…

レーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』

問題の規模がでかすぎるので、気づいた点だけ箇条書きでメモ的に記述していくしかない。おびただしい数の個々のイメージの奇怪さや、襞のように屈曲した細部の複雑さなんかはいっさい無視して、テクストの形式面にかかわる点だけ。 レーモン・ルーセルの手法…

ゾラ『ナナ』

のっけから引用長いよ。 〔…〕強い光が突然死人の顔を照らした。それは見るからに恐ろしかった。みんなは身慄いして逃げだした。 ──ああ、あの人は変わっちまった。と最後までとどまっていたローズ・ミニョンは呟いた。 彼女は部屋から出て、扉を閉めた。ナ…

レーモン・ルーセル『アフリカの印象』

読み方は最後までよくわからなかったんだけど刺激的な作品だった。以下とっちらかったメモ。 訳者の方の解説やフーコーの文章*1なんかを読むと、レーモン・ルーセルは自分の書いた作品の幾つかを、自身「手法(プロセデ)」と呼ぶ、ある特異で秘教的な性格をも…

ゾラ『居酒屋』

小説のドラマの水準には度を越した過大があるように思った。主人公である洗濯女ジェルヴェーズの汚辱にみちたむごたらしい死で終わるこの物語は、彼女の人生からの転落と道徳的な廃頽を克明に追って、その叙述により、際限のない極大化にいたる過大な負荷を…

ジャック・ランシエール『イメージの運命』

小説の描写のことを考えるときにきっかけになりそうことをメモ。というか、メモとも言いづらい混乱ぎみの走り書き。 ランシエールは「表象不可能なものがあるのかどうか」という論考のなかで、芸術の表象的体制そのものを基礎づけながらこの体制における諸芸…

フローベール『感情教育』

これはめちゃくちゃおもしろい小説だった。……と、書き始めたのはいいけど、じゃあどこがどうおもしろかったのか?と人に尋ねられたら、さっそくことばに詰まってしまう。ちょっとおもしろさの規模がでかすぎる気がする。(読んでるこっちの身の丈が、そこでフ…

スタンダール『パルムの僧院』

『赤と黒』はちょうど2年前に読んでいる。物語の細かい脈絡はすっかり忘れてしまっていて情けないんだけど、当時控えておいた感想を読み直してみたら、『間男の父親をもつ息子が自分じしんも間男として女の前に現われて、おそらく(事実ではなく権利問題とし…

ウラジーミル・ソローキン「青脂」

クロード・シモンの「農耕詩」といっしょに『早稲田文学3号』に掲載されてた作品で、こちらもテキスト全体の約3分の1ほどの部分的な訳出とのこと。ソローキンってはじめて読んだ作家だったけど(名前を聞いたこともなかった)、これは面食らった。そしてけ…

クロード・シモン「農耕詩 I」

『早稲田文学3号』に掲載のクロード・シモン『農耕詩』の第一章。これは凄い文章だった。圧倒された。エクリチュールのうえで何かたいへんなことが起っていることは感じるんだけど、厳密にはよく分からない。悔しいけど、何が凄いのかもよく分からない。同…

スタンダールとミメーシスの三種の運命

『アンリ・ブリュラールの生涯』を読み終える。 作家スタンダールと私人アンリ・ベールとを隔てて相互に適切な(お互いにとって安全な)距離をもうけたうえで、そこから十全に、安んじて回想録を記述することが可能となるような純粋な測量地点、そんな神のもの…

ビュトール『時間割』

二年ぶりくらいに再読。おもしろかった。久しぶりに読んで気づいたけど、この小説の推理小説っぽい結構というのは、主人公のアドレセントな、まったくおっちょこちょいな奴と断じてかまわないような、惚れっぽかったり過度に思い込みの激しかったりする未熟…

ヤーコブソン「言語の二つの面と失語症の二つのタイプ」

ヤーコブソンの概論的な記述によると、失語症の症状は言語の構造のふたつの極のあり方に相関し、またそれらに強く規定されているものらしい。ふたつの極っていうのは、いわゆる連辞と連合とかサンタグムとパラディグムというやつで、ヤーコブソンのここでの…

言葉の汀、汀の言葉/ソシュール『一般言語学講義』

ソシュールを読んでておもしろかったところをメモ(正確には、最初読んだときにはすっかり読み落としてしまっていて、気まぐれに読み返したらおもしろいと気づいたところ。本を読むのは人一倍時間がかかるくせに、反射神経がにぶいから、こういうことがよーく…

残雪『魂の城 カフカ解読』

カフカの長編3作と短篇13本を論じた評論集。ドゥルーズとガタリのカフカ論がテマティズム的な手法を駆使して、ある作品がひとつの作品となる以前の、その作品のマテリアルとなるような原基の諸構成部品を発見して再組み立てすることにより、ある作品がひ…

堀江敏幸『いつか王子駅で』

「いつか」と疑問の副詞が「王子駅で」と場所を指す補語をともない、しかし直後に続いてしかるべき肝心の述部が宙に吊られた恰好なものだから、そこから、たとえば「いつか王子駅で会いましょう」と不定の未来における約束が交わされようとしているのか、そ…

多和田葉子『ゴットハルト鉄道』

マユコは先端恐怖症や高所恐怖症というのがどんなものなのか想像ができないほど、自分は神経の太い人間だと信じ込んでいたが、よく考えてみるとふたつだけひどく恐いものがあった。ひとつはハチ、もうひとつはハシだった。蜂が顔のまわりを飛びまわると、重…

バラード『コカイン・ナイト』

かっこよさげなので、雰囲気重視でいきなりニーチェとか引用してみる。 (……)根拠の原理がその具体的な形態のどこかで例外をゆるすように見える場合、人間はとつぜん象徴界の認識形式に迷いをおぼえ、途方もない戦慄的恐怖にとらえられるものだが、ショーペン…

すが秀実『詩的モダニティの舞台』

詩というものを何ひとつまともに読んだことがないし、ましてや詩の歴史や「詩概念」(ポエジー)というものについては今まで考えを巡らせたことすらなかったけれど、この本は刺激的でとてもおもしろかった。すが秀実の著作は『探偵のクリティック』以降のもの…

チェスタトン『木曜日だった男』

「君の変装は良いね」サイムはマコンを一杯飲み干して、言った。「ゴーゴリの変装より、ずっと良い。初端(はな)から、あいつは少し毛むくじゃらすぎると思ってたんだ」 「芸術観の相違さ」教授は物思わしげにこたえた。「ゴーゴリは理想主義者だった。無政府…

セルバンテス『ドン・キホーテ』

ドン・キホーテのユニークな狂気の本性を形作っているミメーシスの身振りはテキストのうえで二重化(重層化)されているように思う。「騎士道物語」という当時ヨーロッパで流行していた文芸ジャンルを読み耽り、それが昂じて、分別盛りもとうにすぎた賢明なラ…

アンドレ・ブルトン『ナジャ』

ナジャ (岩波文庫)作者: アンドレ・ブルトン,巖谷國士出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2003/07/17メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 36回この商品を含むブログ (35件) を見る ナジャという女の謎の前で躓く男・ブルトンのここでの語りは、文学作品とその…

ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』

黄色い部屋の謎 (創元推理文庫)作者: ガストンルルー,Gaston Leroux,宮崎嶺雄出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2008/01/31メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (40件) を見る 1907年に新聞だか雑誌だかに連載され*1、作中でその1…

サミュエル.R.ディレイニー『バベル-17』

バベル17 (ハヤカワ文庫 SF 248)作者: サミュエル R.ディレイニー,岡部宏之出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/07/15メディア: 文庫購入: 6人 クリック: 37回この商品を含むブログ (55件) を見る 前から気になるSF作家の一人だったディレイニーの作品を…