ウェイブジャンパー

 ……書くことがなかったからブログを更新しなかったまでのはなしなんだけど、罪悪感みたいな気持ちがどこかこころにちょろちょろと湧いてきてしまうのは何故なんだぜぇ? ナイーブだろう? エディタを開いてみてはちょっとのあいだ思案して、やっぱ書くことなくて空っぽのモニタをまた閉じて、って毎週末繰り返してたんだぜぇ? ナイーブだろう? へへっ(快心のドヤ顔)

 スギちゃんはめちゃくちゃおもしろいなあ。レッドカーペットとR-1のネタをiPodに落として毎日繰り返し観てるんだけど、何回観ても同じとこで笑ってしまう。同じネタでも観客の反応とか演者本人のそのときの調子とかで間とか声の張りとかに微妙に異なる差があって、ときおり神がかった瞬間があったりする。上の動画はR1に出演したものだけど同じネタ、レッドカーペット出演時だと「その日は不安で眠れなかったぜぇ」ってセリフを発声する直前の、演者にとっちゃ不本意だったかもしれない声と息のもたつく一瞬があって、これがほんと圧倒的にすばらしい。喉もとに乱気流みたいなものが瞬間発生したようなあの感じ。こっちのR-1の方だと万事稽古どおりという感じでスムーズに流れてすぎてしまってあまりうまくいってないように思うけど、最良の瞬間はほんとまさに笑いの神みたいな何かがスギちゃんの喉のあたりを不意にそっとくすぐったみたいな驚きがあったようにも見受けられて、演者のその驚きに観てるこっちもいっしょにびっくりするみたいな瞬間だったと思う。この前はじめて知った芸人だったけどファンになったんでさっそくブログを覗いてブックマークに登録しといたよ。おもしろくてかっこいいわー。

 月の初めは毎回同じこと言ってるけど、今週もまた何冊か本を購入した。こんなことでもないとブログ更新できなくなってしまったよ。マンガは二冊、『愛…知りそめし頃に…』の最新巻と『マンガ・エロティクス・エフ』というなんだかエロそうな雑誌。エロいタイトルの雑誌の方は今まで見たことも聞いたこともなかったんだけど、つばなさんの新連載とインタビューが載ってるってことで手に取ってみた。「バベルの図書館」って連載で、ボルヘスのあれから着想してる作品になるみたいだ。これから定期的に購読してかなきゃならないね。本は固めのやつを三冊ばかり。蓮實重彦ゴダール マネ フーコー』、『グリーンバーグ批評選集』、それからディディ=ユベルマンという人の『イメージの前で』。三冊ともこの前読み終えたフーコーの『マネの絵画』がきっかけで読んでみようと思ったもの。蓮實重彦のはゴダールの映画を観たことないんだけど大丈夫かしら? マネの絵を知らなくてもフーコーの本を自分なりに楽しく読めたんだから、今の身の丈にあったなりにこれもけっこうおもしろく読めるんじゃなかろうか。まあいっちょがんばって読んでみる。グリーンバーグという人もはじめて聞いた名前だったけど、フォーマリズム評論みたいなくくりで『マネの絵画』の各論者がフーコーの分析と並べてちらほら論じてたんで、これも読んどかにゃならんでしょってことで。マイケル・フリードって人とかバタイユの絵画論もやたら引き合いにされてたけどこれらもどこかで手に入るんだろか? マイケル・フリードなんて著者名アマゾンの検索結果にもひっかからなかったんだけど。『イメージの前で』という本は先月読んだ新聞の書評で岡田温司さんか誰かが紹介してたのを覚えてて以来興味があって。帯の紹介にはまたしてもバタイユの名前があるよ。バタイユもいずれいっとくか? とにかく、どれもいずれ読む。ドゥルーズのシネマはまた後回しかも。
 CDを一枚。drexciyaデジパック仕様の新譜「journey of the deep sea dweller」。新譜っていってもすでに亡くなってしまってるから過去作のコレクションみたいな扱いのリリースだろか。ドレクシアはテクノをよく聴いてた当時もそんなに熱心に作品を耳にしてたわけじゃなかったし、どんな事情で今さらこんな盤が出ることになったのかもまったくわからないんだけど。(アーティストの死去が伝えられた直後、「死者で商売はしない」みたいなことをマッド・マイクがどっかで発言してたような記憶があるんだけどな。記憶ちがいか、またはUR関係とはぜんぜん別の経路での流通なのか、はたまた何か思い切った翻意があったのか、よくわからない)。そのむかし聴いて震撼した楽曲が収録されてる。drexciya「Sea Quake」。

 今アナログプレイヤーがぶっ壊れてしまってて持ってるアナログ盤がまったく聴けない環境だったんで、すごく久しぶりに耳にした。自分にとってのドレクシアはこの「Sea Quake」って楽曲一曲を作った、作ってくれた、それだけのアーティストで、それ以上でも以下でもない。今にいたるまで顔写真一枚見たことない人だし、当時亡くなったことを聞いてもほとんどなんの感慨もわかなかった。けどこの曲だけはほんと震えるほど好きだったよ。あの、こういう曲、曲というかこの質感そっくりな音の塊、連なりみたいなものが自分の根っこのところにとぐろを巻いて横たわっているように感じられて、ふだんはまったく鳴りを静めてるんだけど、たとえば夜、眠れない布団の中で目覚める時間が訪れるのを静かに我慢していると、ときどき暗闇の時間の隙間からこんな音が真夜中に鳴りはじめた。完全に静寂で、でもこらえきれないくらいブンブン鳴るこんな真夜中のありえない音、目覚めてしまうとすっかり忘れちゃってるんだけど、でも夜の間中ずーっと体のなかで鳴ってるビリビリするこの感触、この曲はそんな振動にそっくりで、なんというか、すごく偏愛してた。今はもう夜中眠れなくてこらえきれないなんてことはなくなってしまったけど、この曲を聴くと今でも、むかし自分の体をつかまえて放さなかったあの泣きたくなるような痺れとか甘美な痛みみたいな厄介な経験の時間が思い出される。これはそんな一曲。