完成

 3ヶ月かかってようやく自分のコピー本ができあがったよ。コピー(模倣、複写)が主題となっているゴーゴリの原作の上にさらにマンガによる自分のコピーを重ねるというコピコピな感じの出来になった。最終的にはマンガの30ページにレビューの28ページで、なんやかんやでページ数的には65ページの本になった。製本都合6部なり。出来上がったブツをあらためて見返すと、思いのほかそれっぽい(3ヶ月費やしたものがようやく出来たよ!っていうような)感慨が湧いてこない。まあこんなもんかなあくらいの気分。
 今あらためてこれまでの作業の過程全体を思い返してみると、純粋に楽しかったのはペン入れの段階くらいまでのことで、ベタにホワイトといったアナログでの仕上げ段階ではすでにおもしろさにかげりみたいなものがさしはじめてしまっていて、その後のコミスタでのトーン貼りの作業は正直苦痛を禁じえない感じも強かった。選択範囲取ってトーン選んで、トーン貼って、また次のコマで選択範囲取ってトーン選んで、トーン貼って、また次のコマで……っていう、ワックス塗ってぇワックス拭いてぇみたいなこの作業感がひじょうにきつかった。もちろんその作業によって出力される結果じたいはとてもありがたものなんだけど、しかしこの、結果に向けて今努力をしているってことをつねに意識していなけりゃやってられないというその状態じたいが、もうすでに辛いものがある。ほんとうに楽しいことならそんな修行僧みたいな精神状態にはならんもんな。
 原稿がひととおり仕上がって製本って段階になると、もうほんとうに作業以上でも以下でもない。一部何円とかいう内職仕事みたいな感じすらしてた。いや、どの工程もはじめての経験だったんでそれなりに課題がたくさん見つかっておもしろいと言えばおもしろくはあったんだけど、で実際最初の一冊目の工作と最後の6部目の工作と比べてみると確かに微々たるものではあるけれど仕上がりの上で差ができてはいたんだけど、これはやっぱり初発の動機だった「マンガ描きてえ」っていう気持ちとはずいぶんかけはなれたところに来てしまっていて、ホチキスの芯を打つ位置はどこがいいかとか木工用ボンドの糊代はどんな要領でとればいいのかとか化粧断ちをきれいにするにはどうするか、とかいうことは、もうどう頑張っても心からは楽しむことはできない感じがする。
 作業じたいの単調さが徐々に本作りの楽しみを薄れさせていった感じがするけれど、と同時に、やっぱり根本的なところでは、作っているもののかたちが少しずつ定まっていって、そのかたちの決定と反比例的に即応して可能性が少しずつ削れて無くなっていってしまうっていうことが、この徒労感というか詰まらなさの原因でもあるように感じる。出来上がった作品じたいもじっさい大したものではないんで(謙遜でも韜晦でもなんでもなく)、これは仕方がない。いつかもう一度同じ題材で描きなおしてみてもいいかもしれない。
 ともあれ自分がマンガを描くにあたって、工程の各段階につき毎日無理せずにどんくらいのペースでなら作業を継続していくことができるのかっていうのはなんとなく把握できた。今の感じだと年に2、3本の短篇なら趣味として描くことを楽しんでいくことができるみたいだ。せっかく道具もそろえたことだし、マンガを描きたいという気持ちじたいがしぼんでしまったわけでもないから、来年にかけてもう一度新しい作品への準備をしてみようかなと思う。また原作つきになるとして、今度は誰の作品を取り上げるか。ルーセルの「アフリカの印象」、「ロクスソルス」あたりとかポーの短篇のどれか、カフカとかメルヴィルボルヘスあたりもおもしろそうだ。上手くいかなかった今回の雪道の表現のリベンジとして、ロブ=グリエの「迷路のなかで」とかも候補に入れておこう。次は少なくとも50ページ分くらいの分量でB4の大きな原稿用紙を使って描いてみたい。