下書き14日目


 13ページ目を終えたところまで。一日中眠くて、思ってたより原稿がはかどらなかった。
 アカーキイの勤め先の上役で課長補佐という肩書きの人物の家の中の光景を描くのに手間取る。パースの正しい取り方がわからなくて、この手の場面になると毎回ぶっつけ本番の手さぐりがつづくことは自分の現在のスペック的な与件として、もうすでに観念した。それとは別に、複数の人間を家に招いて夜会めいたものを開くこともできる「なかなか豪奢な暮らし」ぶりというのをどうやって演出していいのかがまったくわからなくて困った。例のごとくフワーッと処理したけれど。
 家の中だとか街路の照明の具合なんかも描いててよくわからないもののひとつ。街灯にガス灯が使われるようになるのは19世紀の後半あたりかららしいけど、ゴーゴリの記述には「油が切れて火が灯っていない街灯」みたいな文章が読める。軽油かなんかで明かりを取っているということなんだろうけど、だとすると街灯の高さなんかもメンテナンス的な都合から、今よりも低かったりするんだろうか。
 家の中の明かりも、ローソクがメインなのか、それとも金持ちの家庭じゃ油を使ったランプを使ってたりもするのか。(アルガン式ランプという照明が19世紀あたりに用いられていたっていうことをウィキ先生が言ってた)。当時の明かりとりのじっさいが判明してもローソクに照らされた部屋の陰影みたいな表現は今の自分じゃとてもこなせないので、やむをえずそこらへんはスルーしたけども。
 今日描いた場面のゴーゴリの原作該当部分には「サモワールがしゅうしゅう湯気を吹いている」みたいな記述があって、そこもちょっと頭を抱えた。そもそもサモワールがなんだかよくわからなかったんで調べてみたら、要するに持ち運び可能な簡易湯沸かし器みたいなものらしく、テーブルの上でこのコンロみたいなものにのせた水を入れた壷に火をかけ、紅茶を楽しむってことらしいんだけど、ゴーゴリの文章じゃ、このサモワールが誰もいないはずの控え室の真ん中にあって(そこで誰か紅茶すするの?)、しかも湯気をさかんにあげている(フタが開きっぱなしって理解でいいの? 紅茶飲むんじゃなかったの? 暖房とか加湿器がわりにでも使ってるの?)。もう何がなんだかさっぱりわからないので、とりあえず読んだ印象のとおりそのまんまの絵を描かざるをえなかった。
 いろいろとむずかしいことがたくさんある。